インド占星術家が挑む、アガサ・クリスティ失踪事件の謎(前編)

アガサ・クリスティ。
発表された小説の多くが世界的なベストセラーとなった、誰もが知る「ミステリーの女王」です。
僕は過去、BVBでも正式に扱われていなかった彼女のホロスコープについて、アセンダント(ラグナ)を特定するために時刻修正を行いました。ラグナとは、生まれた瞬間に東の地平線にあった星座で、その人自身や運命の土台を示します。
今回は、この修正したホロスコープを元にして、ある「ミステリー」に挑みたいと思います。
それは、アガサ・クリスティ失踪事件です。
世界を騒がせた「空白の11日間」

その事件が世間の耳目を集めたのは1926年。
同年、彼女は『アクロイド殺し』を発表し、ついにベストセラー作家の仲間入りを果たしたばかり。しかしその矢先、ロンドン近郊の田園都市サニングデールの自宅を出たまま突如行方不明となってしまったのです。
当時、警察は自発的な失踪として彼女を探す一方で、事件に巻き込まれた可能性も視野に入れて大規模な捜査を行いました。
その結果、彼女は11日後、350キロほど離れた保養地ハロゲイトのホテルに滞在しているところを発見され、家族の確認によって無事に保護されました。しかし、彼女は夫の愛人の名である「テレサ・ニール」という別人名義で宿泊しており、自身が失踪していたことの記憶を完全に失っていると主張したのです。
この衝撃的な事件は、その後も世間で多くの議論を呼びました。
さまざまな憶測がなされましたが、彼女は1976年にこの世を去るまで、失踪の経緯について一切を語らず、近しい友人にも詳細を明かしませんでした。 結果として、この事件は彼女の生涯において最も難解な「現実のミステリー」として語り継がれることになります。
惑星のトランジットが語る「衝動」と「傷心」
彼女はなぜ家を出たのか?そして、本当に記憶を失っていたのだろうか?
失踪当時の星の配置(トランジット)から、その内面に迫ってみたいと思います。
アガサが家を出たのは、1926年12月3日(金)の午後9時45分。
彼女は住み込みのメイドに行き先を告げることなく外出すると伝え、当時は珍しかった自動車を自ら運転して一人で出かけています。
失踪時のトランジット・チャートを出力すると、彼女の精神状態がかなり特殊な状態であったことが見て取れます。

内側がアガサのホロスコープ、外側がトランジットチャート(当時の惑星配置)。
トランジットの影響を見る時は、この内側と外側のホロスコープを重ね合わせて考えることになります。
前回の修正によればアガサは蠍座ラグナ(アセンダント)。
この日、まさに5つもの惑星がアガサのアセンダントの上を通過していたことになります。
重要なのは、アガサのアセンダント(蠍座)の上を月がトランジットしており、多くの凶星(太陽・土星・火星)の影響で傷ついている点。一目瞭然ですね。
月がアセンダントの星座をトランジットするのは「ジャンマ・チャンドラ」と呼ばれますが、それが多くの凶星と絡むことで、危険度を増しています。
さらに、乙女座にあるアガサの月(心・マインド)もトランジットの火星からアスペクトされて傷ついています。
(牡羊座にあって逆行する火星は、特別ルール※1で魚座から乙女座にアスペクトします)
心を示す「月」が彼女自身を示す「ラグナ」にあり、凶星で何重にも傷ついている。
これはまさに錯乱や傷心、突発的な衝動を引き起こしやすい状態だといえるでしょう。
また、アセンダントをトランジットする月と水星の組み合わせは敏感さ、時に過剰な反応をあらわします。

また、トランジットの影響を検証すると、この時期特に3室(移動)と7室(配偶者)が強調されていたことがわかります。
失踪時、アガサのヴィムショッタリ・ダシャー※2はJu-Sa-Ju期でした。
トランジットの木星も土星もアガサの3室(山羊座)と7室(牡牛座)に絡んでいます。つまり、ダブルトランジット※2も当然3室と7室でできているということ。
また、アガサの月(乙女座)から見ると3室(蠍座)でトランジットの惑星集中が起きています。
重要な事実だと思いますが、アガサは事件の前に最愛の母親を亡くし、さらに夫に恋人がいたという事実に深く傷つけられていました。失踪の前日には夫との間で激しい口論があったとされています。
以上の検証から考えるに、失踪当時の行動は、多くの人が論じた「宣伝目的」や「冷静な復讐計画」などではなく、月とラグナへの強烈なダメージが示す通り、家庭内の問題に心が耐えきれなくなり、心理学でいう「解離性遁走(一時的な記憶の欠落や衝動的な逃避)」に近い状態に陥っていたのではないでしょうか?
空白の11日間に何が起きたのか?

失踪の翌朝、警察がチョークの採石場で彼女の車を発見。ヘッドライトはつけっぱなしで、車内には荷物の入ったスーツケースと毛皮のコートが残されたままでした。
そして失踪から11日後の12月15日。彼女は自宅から350キロも離れた保養地ハロゲイトのホテルで無事に発見されます。前述の通り彼女は夫の愛人の名を騙って宿泊しており、さらに自身の失踪を報じる新聞をくつろいで読んでいたというのです。
ここで一つの大きな疑問が残ります。
衝動的に家を飛び出したはずの彼女が、なぜ発見時には遠く離れたホテルで別人を名乗り、自分の失踪を報じる新聞を(まるで他人事のように)読んでいたのでしょうか?
実は、失踪した12月3日から、発見された12月15日までの「空白の11日間」の間に、トランジットの惑星配置は大きな変化を遂げていました。
次回の後編では、発見時のトランジットに現れた「4つの変化」を読み解きます。
※1 トランジットにおいて逆行する惑星は、ひとつ前の星座からもアスペクトするという特殊なルール。
※2 インド占星術における最もメジャーな予言技法。月の(ジャンマ)ナクシャトラの支配星から運気を司る惑星が展開していく。
※3 トランジットの木星と土星の影響が重なるハウスが活性化するという考え方。



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