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惑星のトランジットで探る、アガサ・クリスティ失踪事件の謎(後編)

4 時間前
読了時間: 6分

中級者向けの記事です。


先日の記事では、1926年に起きた「ミステリーの女王」アガサ・クリスティの突然の失踪事件と、その引き金となった星回りについて検証しました。   


最愛の母の死、そして夫の不貞という重度の精神的ストレスに加え、彼女のホロスコープ(蠍座ラグナ)をトランジットの月や複数の凶星が直撃していたこと。

その結果、家庭内の問題に耐えきれなくなった彼女が、錯乱状態のまま異常な衝動に突き動かされて夜の闇へと車を走らせた――というのが、前編で導き出したトランジット検証の結論でした。   


失踪時のトランジット(内側はアガサのD1チャート)
失踪時のトランジット(内側はアガサのD1チャート)

※前編をまだ読んでいない方は、ぜひこちらからご覧ください。

失踪の翌朝。ヘッドライトをつけっぱなしにした無人の車が発見され、大々的な捜索が行われたものの、彼女が発見されたのは11日後。

衝動的に家を飛び出したはずの彼女に、この「空白の11日間」の間、一体何が起きていたのでしょうか?   


空白の11日間に何が起きていたのか?


アガサが見つかったのは、前述のように失踪から11日後の1926年12月14日でした。そして自宅に帰ったのが12月15日。

場所は自宅から350キロほど離れた、ヨークシャーの保養地ハロゲイトのホテルです。

彼女は夫の愛人の名である「テレサ・ニール」を名乗り、記憶を失っている様子で、自身の失踪が大きく報じられた新聞を読んでいたといいます。   


ここで大きな疑問が生じます。前編で検証した通り、失踪当夜の彼女は月とラグナが凶星に直撃され、精神的に追い詰められた末の「錯乱・衝動的な逃亡」でした。

しかし、発見時の彼女は別人を名乗り、まるで自らの状況を客観視しているかのように振る舞っています。   


この急激な変化の鍵を握るのが、失踪時(12月3日)から帰還時(12月15日)にかけて天空で起きた「4つの大きな星の変化」です。   



発見時のトランジットが示す「4つの大きな変化」


発見時のチャートを確認すると、ダシャーロード(運気の主)である木星(Ju)の配置や、惑星の運動に劇的な変化が起きていることがわかります。   


① ダシャーロードの移動(木星が3室から4室へ)

この時の彼女のヴィムショッタリ・ダシャーはJu-Sa-Ju期。 左側が失踪した時のトランジット(当時の惑星配置)、右側がアガサが帰還した日のトランジットです。内側のホロスコープはいずれもアガサ本人の出生図です。

左右のトランジットチャートを見比べてみてください。


ダシャーロード(運気を司る)のJu(木星)が、失踪時の3室(移動・短距離の旅行)から、「家庭」「幸福感」を象徴する4室へと移動しています。

木星は12年かけて星座を一周するため、ひとつの星座に約1年程度滞在することになります。つまり、1年に一度の変化がちょうどこの時起きていたことになります。



② 4室でのダブルトランジットの成立



木星が山羊座(3室)から水瓶座(4室)へと移動することで、ダブルトランジット(トランジットの木星と土星の影響が重なり、活性化すること)も変化しています。


トランジットの木星はアガサのホロスコープにおける4室(水瓶座)に在住し、一方、トランジットの土星は蠍座からアガサの4室を支配する土星(獅子座)にアスペクトしています。


これにより、3室(移動)と7室(パートナー)で形成されていたダブルトランジットは、アガサの帰還時には「4室(家庭・幸福感)」で形成されています。


 

③ 惑星の「逆行」から「順行」への転換

個人的に最も大きなトリガーとなったのはこれではないかと思っているのですが、失踪時逆行していた火星(Ma)や水星(Me)などの惑星が、帰還時には本来の「順行」へと戻っています。   


逆行から順行への変化、または逆行から順行への変化は物事の変化を示唆します。

水星は「1年に約3〜4回」というペースで頻繁に逆行するので珍しいことではありませんが、火星は全惑星の中で最も逆行する頻度が低い(約26ヶ月に1回)惑星です。


木星のイングレス(星座をまたぐ)と同時に、火星の逆行から順行というレアな現象が起こっていたことになりますね。



④ 金星の移動(2室、および月から見て4室へ)

また、Ve(金星)も蠍座から射手座にイングレス(移動)しています。

射手座はアガサにとって2室(実家、衣食住)。また、彼女の月(乙女座)から見て4室にあたるため、ここでも「4室」が強調されていることがわかります。  


正直、こうした大きな4つの変化がたった11日間の間に起きていたことに驚かされます。

そして、これらの星の動きが意味するもの――それは、彼女の精神を蝕んでいた一時的な混乱やダメージが綺麗に抜け落ち、運気のベクトルが「家庭や基盤(4室)」への回帰へと一気にシフトしたということです。   



心理学と星の動きが解き明かす「真のシナリオ」


英国のタブロイド紙はこの事件を熱狂的に報道した。記事には変装させたアガサの写真が掲載されている
英国のタブロイド紙はこの事件を熱狂的に報道した。記事には変装させたアガサの写真が掲載されている

では、この星のシフトと彼女の行動をどう結びつければよいのでしょうか。

以下は僕の推測です。


心理学的に見れば、極限のストレスから逃れるために突発的に車を走らせた彼女は(解離性遁走に近い状態)、数日経って安全な場所で休息を取り、星が順行に戻るタイミング(12月7日頃)で「ハッと正気を取り戻した」はずです。


しかし、正気に戻った彼女が直面したのは、「全国が大騒ぎしている」という現実でした。

1920年代当時、家庭不和や精神衰弱による家出は強い社会的偏見の目に晒されます。

ここで彼女の脳裏に浮かんだのは、パニックや羞恥心ではなく――あるいは、一人の優れた表現者としての「知的な企み」だったのではないでしょうか。


「もしかして、この状況を利用して、私自身の行動をある種の『ミステリー』として演出したら面白いのではないか?」


彼女がそう考えたかどうかは定かではありません。しかし彼女は自ら名乗り出ず、夫の愛人の名を騙りながら発見されるのを待ち、「記憶喪失」という最強のアリバイを盾にしました。

そして、生涯にわたりその真相を一切語らなかったのです。   



現実世界で完結した、最高潮の「叙述トリック」


『アクロイド殺し』 (ハヤカワ文庫)
『アクロイド殺し』 (ハヤカワ文庫)

奇しくもこの年、彼女はミステリーの常識を覆す叙述トリックを用いた『アクロイド殺し』でベストセラー作家の仲間入りを果たしていました。

作中で語り手自身が都合の良い部分を隠蔽して読者を煙に巻いたように、彼女は現実の事件でも「記憶の欠落」を主張し、自らを「謎のヒロイン」として演出することで、世間を完璧に欺いてみせたのです。


星の逆行がもたらした一時的な心の闇から抜け出し、正気を取り戻した「ミステリーの女王」は、自らの人生そのものを後世に語り継がれる究極の謎へと昇華させました。   


本当に彼女は記憶を失っていたのか。それとも、すべては計算づくのシナリオだったのか。

インド占星術のダシャーとトランジットは、彼女の心に起きた「衝動から冷静な計算へのシフト」を、今も鮮やかに物語っています。


あなたなら、この星回りから何を読み取りますか?   



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