月とラーフが織りなす光の魔術・・・映像作家のコンビネーション

先日インド占星術初学者に向けて「初心者必見!読むべきインド占星術本 BEST3」という記事を書きましたが、実はまだまだオススメしたい書籍はあります。
2023年に太玄社から出版された『インド占星術大全』(M.Sメータ著/清水俊介訳)もそのひとつで、基礎知識から応用分野、ややマニアックな概念まで、幅広い内容を網羅した良書です。
わからない知識や参照したいことがあればサッと辞書代わりにも使えるという点で、ある程度基礎知識を学んだ人にとっては、重要度は「ラオ先生のやさしいインド占星術」と並ぶか、それ以上かもしれません。
情報量が膨大なのはもちろん、古典からの引用も豊富なので、その部分は難解ながら示唆に富んでおり、読むたびに新たな発見があります。
こういう記述は読んだその時点ではいまいちピンとこなかったり、読み流してしまうことも多いのですが、後からふと思い出して「なるほど!」と納得することもしばしば。
今回ご紹介する「月とラーフ」のコンビネーションに関する記述もそのうちのひとつです。
月+ラーフ=映像作家?

こちらは先日鑑定した方のホロスコープ。 職種はデザイナーですが、個人的に映画を撮影してとあるインディペンデントの映画祭に出品し、新人賞に選ばれたこともあるというユニークな経歴の持ち主です。
このホロスコープを見て、僕は『インド占星術大全』に「映像産業に従事する人々のコンビネーション」として記されたある一文を思い出していました。それは「ラーフは多くの場合、月と絡む」というものです。

左側のD1(出生図)と右側のD9(ナヴァーンシャ)で、10室(職業)に関係する惑星をピックアップしてみると、
月・ラーフ(ケートゥ)・木星・土星
が共通の要素として挙げられます。
D1で10室はラーフ・ケートゥ軸にあり※、月がアスペクト。
また、10室を支配する水星はシャタビシャーというラーフが支配するナクシャトラに在住しています。
D9ではご覧の通り、10室に月とラーフが在住。
しっかりと10室に月とラーフが絡んでいることがわかりますね。

もうひとり、知人のホロスコープでも見てみました。 彼は映像クリエイターで、企業やアーティストのPVやMVなど、さまざまな映像作品を手がけています。
10室に注目すると、月がアスペクト。
ラーフは10室を支配する火星のナクシャトラ(ムリガシラー)に在住しています。
やや微細なレベルながら、やはり10室と月・ラーフの絡みが成立しています。
『大全』に記されていた文章はおそらく「月とラーフ同士が(コンジャンクトやアスペクトなどで)絡む」という主旨なのでしょうが、その法則を少し変化させて
「10室に月とラーフが絡む」
と捉えてみると、このふたつのホロスコープは条件を満たしています。
光と影の惑星が「映像」を作る

国立映画アーカイブ (https://www.nfaj.go.jp/ )より
さて、ここで疑問になってくるのはなぜ月とラーフが映像分野をあらわすのか?ということです。
参考までに、フィルム映写機の仕組みを図にしたもの(上)を「国立映画アーカイブ」さんから拝借しました。
こういうものを見るとつい映画好きの熱が高まるのですが(笑)、仕組みそのものに注目すると、要は映写機というものは
「フィルムの絵に光を照射してレンズを通し、スクリーンに映し出す」
ための装置であることがわかります。

この構造は、月それ自体が発光しているわけではなく、太陽の光を反射してわれわれの目に映るという関係性によく似ています。
つまり月は「スクリーン」の役割を果たしているということですね。
月光は月の表面にあるさまざまなガラス粒の反射、そして地球の大気による屈折などの影響を受けながら、われわれの視覚によって認識されることになります。
では、ラーフの果たす役割とはどのようなものなのか?
これについては、色々と面白い想像を膨らませることができるように思います。

ねとらぼ「「フィルム上映のしくみ」描いた漫画 映写機やカメラの図解で映画がもっと好きになる」(https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2007/30/news010_2.html )より
こちらは漫画家ゆめのさんの描いた『フィルムの映画史』という作品の一場面です(こちらの漫画、非常にわかりやすく映写の仕組みについて描かれてあるので、興味のある方にはオススメ!)。
そもそも映画やアニメーションは、人間の「運動錯視」という生理現象を利用して作られている娯楽です。ここに描かれているように、物理的には同じスクリーンや画面なのに、当てられる光が変化することで動く映像として知覚される、つまりうまく脳を「騙している」ということですね。
ここでラーフの持つ「幻影」「嘘」「詐欺」といった性質が思い浮かぶのは僕だけではないと思います。また、実体を持たないラーフの別名は「影の惑星(チャヤ・グラハ)」。
「撮影」「投影」などといった言葉もありますが、まさに映画で私たちが目にするものはフィルムに刻まれた図像の「影」であり、平面を三次元の存在と勘違いさせる「幻影」です。
こうして映写そのものの仕組みを紐解いて、惑星の性質と照らし合わせると、「月とラーフが映像分野のコンビネーション」という説にもそれなりの根拠と説得力が感じられてきます。
また、こうした性質は映画技術の元となったカメラにも同様のことが言えると思いますし、インドネシアなど東南アジアの伝承芸能として伝わっている影絵(かげえ)にも通じるものがあると思います。
それではブラウン管テレビはどうなのか?などまだまだ想像は膨らみますが、長くなったので今回はここまで。
次回はこの研究を元に、実際に映像制作の仕事をする人のホロスコープを取り上げ、パラメータが当てはまっているか検証してみたいと思います!
※ラーフとケートゥは常に対角線上に位置するため、ラーフ、あるいはケートゥとコンジャンクトすることを「ラーフ・ケートゥ軸にある」という言い方をする。
Comments