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アイビーさんとの師弟対談【とあるインド占星術師が考える欲との付き合い方】Part.4



Twitterスペースにて行われたアイビーさんとの対談「師弟対談【欲とは?】とあるインド占星術師が考える欲との付き合い方withアキュバル先生」文字起こしパート4(最終回)です。

(注:『火の鳥 鳳凰編』のネタバレあります)



「古代人になりたい」私たち


アイビー アキュバル先生は、小さい頃から抱いていた根源的な「欲」は何かありましたか?今も自覚できている範囲で。


アキュバル 何だろう?今自分がやっていることすべては、大昔に遡っていくことなんですよね。何千年も前に住んでいたような太古の人間たちが何を考えていたのか知りたいというのがあって。だからペルシャ音楽※1もそうだけど、一番古いものに興味がある。

インド占星術も紀元前23000年前の『アタルヴァ・ヴェーダンタ・ジョーティシュ』にはすでにナクシャトラ※2に関する記述があったようですが、遡ろうと思えばそのぐらいまで遡ることができる。

その時代に生きていた人は、僕たち現代人とは身体も心もまったく異なるでしょう。僕はそれを知りたいし、少しでも現代に甦らせたい。


アイビー ああ、甦らせたいという気持ちがあるんですね。自分も近い部分を持っていて、私の場合は小さい頃から・・・小さい子ってぬいぐるみとかに興味を持つと思いますが、私は完成された人形が好きだったんです。

本能的に美しく完成されたものを求めていて、そういう意味では大昔の美術、特に植物などの生命を讃えているような文様が小さい頃から好きでした。「古代人になりたい」と思っていた時期もあります。今もそうなんですけど(笑)。


アキュバル それは僕もそうですよ。


アイビー 現代は情報が多すぎて、もっとシンプルになれないのか、なんでこんなに頑張らなくちゃいけないのと(笑)。もっとエモく生きちゃダメなのか!と。インド占星術を習うずっと前ですけど、先輩の占い師さんにも「アイビーって古代人みたいだよねw」って言われてました。

大昔の儀式も好きです。自分は朝鮮系のルーツがあるのですが、厳格に朝鮮式の儀式をやろうとすると1年の大半は儀式に振り回されてしまいます(笑)。でも私たちはロウソクの消し方や立つタイミング、お札の燃やし方まで、やり方を小さい頃から叩き込まれているんです。


アキュバル それは儒教においてご先祖様を祀る儀式?


アイビー はい、先祖供養ですね。今思えば、その儀式に即していた時にはどこか安心感がありました。

アキュバル 身体の作法から入って心を整えるということですね。よくできた「式」や「型」にはそういう作用があると思います。だから雀鬼も、心の持ち方うんぬんより先に牌の打ち方を教えるわけですよね。



「来世でもきっと出会う 科学的にいつか証明される」


アキュバル インド占星術は輪廻転生の思想を前提としていますが、アイビーさんはそういうものを自然に受け入れられたんですか?


アイビー 私は前世を信じているというか、「ある」と思っています。一度退行睡眠をかけていただいたことがあって、前世の地に降りてヴィジョンを視るということをやったことがあるんです。そこから4人ほど前世の自分の人生を遡ったんですが、今の人生に大きく影響しているのがインド人だった時の記憶です。

その時にアーユルヴェーダの医師に近いことをやっていたのですが、女性だったので地位は低かったようです。ある時夫が失踪してしまったんですが、当時、寡婦は後追い自殺するべきだという風習※3がありました。私はそこから死ぬ気で勉強しなければ身を立てられない、認められないと思ってすごく勉強したんです。

それは今にも通じる部分で、アーユルヴェーダに携わっていますし、断食が大好きだったりしますね。インド占星術に関わっているのもそうです。前世では女性性を楽しめなかったという記憶もあり、現在コスメやファッションのお仕事に関わらせていただいているのは、そういう方向で発散というか、出ているからなのかなと思います。だから輪廻転生に抵抗感はなかったですね。インド占星術でも前世についてわかったりしますよね?


アキュバル そのためのテクニック※4もありますね。


アイビー そういう意味で私としてはインド占星術の思想は納得できるものでしたが、前世については私にとって当たり前でも世間一般ではそうではないこともあり、公の場で話すことはあまりないです。でも宇多田ヒカルさんも歌の中でそれは科学的に証明されることだと言っていましたよね。


アキュバル え、そうなの?(笑)


アイビー 『君に夢中』※5の歌詞に「来世でもきっと出会う 科学的にいつか証明される」というのがあるんです(笑)。



『火の鳥 鳳凰編』と輪廻転生


『火の鳥4 鳳凰編』手塚治虫 (角川文庫)


アキュバル しかし、そこまではっきり自分の前世を覚えているというのはかなりのレアケースだろうね。一般的な日本人の多くは仏教を通じて輪廻転生の考えをうっすら知ると思いますが、そこまで馴染みはないでしょう。

ちなみに僕が最初に輪廻転生について知ったのは手塚治虫の『火の鳥』でしたね。僕がインド占星術に興味を持ったきっかけをずっと遡れば、たぶん『火の鳥 鳳凰編』※6に行きつくと思います。読んだことありますか?


アイビー たぶんないと思います。


アキュバル 我王と茜丸という二人の仏師の物語で、さまざまな因縁を経て、最後は創作で対決するというものですね。先ほどの「欲」の話でいうと、この二人には「像を彫りたい」という根源的な「欲」があり、そのための素晴らしい才能にも恵まれていました。

この『鳳凰編』は奈良時代の話なのですが、ある時主人公のひとりである茜丸は奈良の大仏造営という国家規模のプロジェクトを任されることになります。しかし、一挙に地位や名誉が入ってくることで、かつては純粋だった「素晴らしい仏像を造りたい」という想いは徐々に変質していってしまう。


アイビー はい。


アキュバル しかしもう一人の主人公である我王は対照的に、地位や名誉に目が眩むことはなかった。彼は幼い頃から不幸な生い立ちで、その頃の怒りや悲しみをずっと抱えて生きてきた人物です。彼にとって創作とは、それを表現するための手段だったわけです。


アイビー なるほど。


アキュバル 『鳳凰編』のラストでは、その対照的な人生を歩んだ二人の仏師が対決する。誰の目にも我王の勝利は明らかでしたが、茜丸は咄嗟に我王の過去の悪行をばらし、我王の片腕を切り落とさせ、さらに京から追放させてしまいます。

しかし、その茜丸も最後は不幸な事故死を遂げてしまう。死を迎えようとする茜丸の前に火の鳥があらわれ、「もうあなたは人間として転生することはない」と宣告します。


アイビー 罰ということですよね。なんだかとても悲しくなってきました。。


アキュバル せっかく人としてこの世に生を享けながら「他人の欲望」を生きてしまった人間の末路というわけですね。このスペースのテーマである「欲」について考えていた時、ふとこの『鳳凰編』について思い出したんです。


アイビー ありがとうございます。私も『鳳凰編』、読んでみることにします。



※1 イラン音楽。ペルシャ語に基づいた音楽文化を「ペルシャ音楽」と総称する。微分音やダストガー(旋法)など、西洋音楽とは大きく異なった音楽体系を持つ。アキュバルはイラン人演奏家シャーサーバリー・ハミド氏に師事してペルシャ音楽の手ほどきを受けた。

※2 インド占星術の重要な基本概念のひとつ。黄道360°を27分割した星座のことで、360°÷27=13° 20′がひとつのナクシャトラの幅となる。月が毎晩ひとつのナクシャトラから次のナクシャトラに動いていくように見えるため、「月の花嫁」とも呼ばれる。

※3 サティ。寡婦が夫に殉死する風習。ヒンドゥー社会における慣行だったが、19世紀に禁止令が出された。

※4ラオ先生が書いたインド占星術の教科書~占星術が明かすカルマと輪廻転生』では本人の前世をドレッカナ(D3)というチャートを使って推測する技法が紹介されている。

※5 2021年11月26日に配信限定シングルとしてリリースされた宇多田ヒカルの楽曲。TBS系ドラマ『最愛』の主題歌に起用された。

※6 手塚治虫のライフワーク的大作『火の鳥』シリーズのひとつ。大仏建立が行なわれた奈良時代を舞台に2人の仏師の数奇な運命を描いた作品で、シリーズ屈指の人気を誇る。『COM』において1969年8月号から1970年9月号まで連載され、劇場版アニメとしても公開された。

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